胡蝶蘭を大切に育てる

思い出の胡蝶蘭

それは、美しい女性でした。

 

もう何年も前のことです。働いていた会社の室長は 当時はまだ珍しい、役員待遇の女性で、その切れ味鋭い仕事ぶりと、皆を一つにまとめていける人柄から、男性からも女性からも尊敬されていたものです。若かった私には憧れの存在で、いつしか目標ともなっていた人だったのです。

 

 

 

その彼女が、勇退されることになったときのこと。

 

職場の皆から、感謝と重責を全うされたお祝いに、お花を贈ろうということになりました。そして、その準備は下っ端だった私の担当となりました。

 

 

 

何の花を、という決めはありませんでしたが、役職が役職だけに予算もそこそこ。憧れの女性に贈る花の準備を任されることは、当時の私にとっては、とても光栄なことでした。

 

そして、私が選んだのは、白の胡蝶蘭。その、気品ある 美しさは、彼女のイメージにぴったりだったからです。今だったら、時間指定して、さっと届けてもらえるところですが、当時自分で、花を選びたかった私は、上司にお願いし、いいお花がそろっているという花屋さんに、直接買いに行ったのでした。

 

 

 

胡蝶蘭を切り花使いにする時は、鉢に植えられているのを、その場で切って花束にしてくれるのですね。そんな手順も知らず、会社から飛んで行った私は、時間がかかってハラハラ。丁寧にラッピングされた花束を抱きかかえ、慌てて会社に戻ってきたのでした。

 

 

 

部屋に入った途端、私に投げかけられた一言、

 

「わー、遅かったー、たった今、挨拶にみえたんだよー。」

 

「惜しかったなー。いいお話をしていただいたんだよ。」

 

聞けば、社内のいろいろな部署を回られてる都合で、私たちのところには予定より早く来られたとのこと。お花を渡せなかった上に 最後のお話も聞くことができなかったショック。もたもたしてしまった私のために、「ご挨拶、〜 花束贈呈」という我が部のセレモニーの予定がかなわなかったので、先輩方にも申し訳なくて、立ち尽くしてしまいました。

 

「仕方ない、もうお部屋に戻られているだろうから、代表で、渡してきて。」と上司。

 

私の手際の悪さから間に合わなかったお花、お詫びしなきゃ。そして、尊敬する大先輩に感謝の気持ちを、どう伝えればよいのかー。カチンカチンに固まって、室長室へ行ったのです。

 

 

 

「まー、胡蝶蘭、私、好きな花なのよ。わざわざ、用意してくれたの? 嬉しいわー」

 

固まって、うまくしゃべれなくなっている 私のことを察したのでしょう、微笑みとともに 発せられたその一言で、もう私はその場にわっと、泣き崩れてしまいました。

 

私のことを、なだめながら、笑顔で受け取ってくれた彼女は、せっかくだから記念の写真を撮ろうと言ってくれました。くしゃくしゃの顔はすぐにはもとには戻らず、結局、そのまま、写真におさまることに。真っ白な胡蝶蘭がまぶしい その写真は今でも私の大切な1枚です。

 

 

 

あれから・・・歳を重ね、ずっと手際のよくなった私は、お祝いに胡蝶蘭を送ることも幾度か。

 

そして、私自身も節目節目でお花をいただくことも、何度か経験しました。そんな時、私のためにあれこれと悩んでくれたであろう、送り主の方に、心をこめて感謝の言葉を伝えている私です。

 

あの日の、胡蝶蘭のように優雅で気品に輝いていた 室長を思い出しながら。。